この記事の狙い
SaaSの新機能や新規プロダクトを企画・探索していると、MVPの試作や顧客ヒアリングで得られる現実の気づきが増えるほど、方向性が発散して「何に収束すべきか」が分からなくなることがよくあります。
本記事は、その収束を助けるための「テンプレート」を短く紹介するものです。あくまでテンプレート(書式)そのものの紹介であり、プロジェクトごとの深掘りドキュメントではありません。チームで同じフォーマットを定期的に見直すことで、仮説検証の学びを一本の製品方向性へ束ねることを意図しています。
今回は、Zendeskが紹介している「ポジショニング・ステートメント(Positioning Statement)」の構造を利用します。
使うテンプレート:Zendeskのポジショニング・ステートメント
以下は、よく知られたポジショニング・ステートメントの構造を日本語の記入ガイド付きで示したものです。空欄に埋めるだけで、ターゲット・課題・カテゴリ・主要価値・代替・差別化を一枚に収められます。
顧客への価値を中心に伝えたいとき(Zendeskの構造)
出典: https://www.zendesk.co.jp/blog/positioning-statement-examples/
[対象顧客] にとって、
[製品・サービス名] は [製品カテゴリ] であり、
[顧客の課題] を解決します。
その結果、顧客は [製品がもたらす具体的なベネフィット] を得ることができます。
記入例(例示)
競合比較型:
リモートワークに課題を感じる中小企業 にとって、
TeamSync は チームコラボレーションツール です。
社員のタスク管理とコミュニケーションを一元化し、生産性を向上させます。
Slack と異なり、私たちの製品は 進捗管理機能が標準搭載されている のが特徴です。
顧客価値型:
リモートワークに課題を感じる中小企業 にとって、
TeamSync は チームコラボレーションツール であり、
チーム内の情報共有不足を解決します。
これにより、社員がよりスムーズに協働し、業務効率を高めることができます。
いつ・どう使うか(最小の運用)
- タイミング:MVPの初版〜顧客ヒアリングの1〜2サイクルごとに更新。
- オーナー:PM(または企画責任者)が編集責任を持ち、週次でレビュー。
- 評価:変更履歴を残し、直近2週の学びが反映されているかを確認。
よくある失敗と回避策
- 失敗:対象が広すぎる → 回避:採用した/失注した具体顧客の共通点で狭める。
- 失敗:価値が曖昧(早い/安いなど抽象)→ 回避:数値/行動で表せる結果に置き換える。
- 失敗:カテゴリが独自語 → 回避:既知カテゴリに寄せ、独自性は差別化で表現。
- 失敗:差別化が機能列挙 → 回避:ユースケースと成果に翻訳して一言で言い切る。
このテンプレートは、議論を「何のために、誰に、どんな価値を、どう勝つか」に収束させるための最低限の骨子です。詳細な市場調査やPRDの代替ではなく、それらを束ねる“方位磁針”として運用してください。